いちじくとマルメロのお話

どこの民話だったか覚えていません。あるお百姓さんが、自分の畑のマルメロがたくさん実ったので、王様に献上しようと思い、持っていこうとしたところ、おかみさんが、「止めておきなさい。王様は、マルメロは固すぎて好まないでしょう。それよりイチジクがたくさんできているから、イチジクを持っておいき」と言いました。そこで、お百姓さんは、沢山のイチジクを王様に持っていきます。すると、王様は、持ってきたイチジクを一目見て、「なんだ、イチジクか」と思い、そのお百姓さんに向かって、イチジクを投げつけるのです。すると、イチジクをまともにぶつけられたお百姓さんは、「ありがたい」と言って頭を下げます。さらに、王様は、イチジクを投げつけますが、またしても、お百姓さんは、「ああ、ありがたい」と言って頭を下げます。続けて、王様は、面白がって、なおもイチジクを投げつけますが、投げつけるたびに、お百姓さんは「ああ、ありがたい。ありがたい」と言いながら頭を下げるのです。
最後に、王様はお百姓さんに聞きます。
「お前は、なぜ、イチジクの実を投げつけられるたびに、『ありがたい、ありがたい』と言うのか」と。

そうすると、お百姓さんは、「実は、王様、今朝、妻に『王様にマルメロを持っていこう』と話したのですが、妻は『マルメロなんか持って行くのは止めなさい。』と言って、イチジクを持たせたのです。もし、王様にマルメロをぶつけられたら、痛くて痛くて我慢できなかったでしょう。でも、賢い妻がイチジクを持っていきなさいと言ってくれたために、そこまで痛くありませんでした。いい妻を持ったなぁと思って、『ありがたい』と言ったのです」と言いました。

この後の話は、どうだったか覚えていないのですが、ふううん、と幼いながらも、このお百姓さんはとんでもない誤解をしているなぁ、マルメロを持って行っていたら、きっと投げつけられることはなかったのに、奥さんが、マルメロを持っていくのはもったないと思ったに違いない、この人はお人よしだなぁと思った記憶があります。

そのときは、マルメロという果物がどんな果物か全く知りませんでした。異国の果物で、きっと、とてつもなくおいしいんだろうと思っていました。

後になって、マルメロとは、花梨のことだと知りました。信州の花梨エキスを水や炭酸等で割って飲むととてもおいしいです。花梨ジュースを飲んだり、花梨を食べたりするたびに、この話を思い出します。